今回はTRN STMのレビューです。第1回は箱出しからエージング終了後までレビューして行きます。外装画像等のレビューがご不要であれば『音質』から後ろもしくは『総評』だけご覧ください。
- イヤーピース変更の提案もしていますが、耳の形状によっては必ずしも私と同じ感じ方になると限りません。ご了承ください。
- イヤホンレビューの見方や用語の説明などは『当ブログのイヤホン・ヘッドホンレビューの見方(2018/10/24版)』をご覧ください。
目次
製品仕様
- ブランド:TRN
- 型番:STM
- ドライバ構成:1BA+1DD
- インピーダンス:24Ω
- 感度:106dB
- 再生周波数帯域:20Hz-20000Hz
- ケーブル端子:2pin KZタイプCと同形状(0.75mm)
- BAの型番は30019
- DDは10mmの二重磁気
- 付属ケーブルは4芯OCC(単結晶銅)
外箱は白い簡易仕様です。
付属品はケーブルとTRN標準のシリコンイヤーピース1種類3サイズ、交換用ノズルは装着済みのものと合わせて3種類です。
交換ノズルは装着済みのフィルターなしの金(Balance & Natural)、高音の刺激を抑える青(Resolving treble)、更に高音を抑え相対的に低音を強める赤(Deep Bass)の3種類です。
フェイスプレートはダイキャストっぽい金属です。背面にはベントはありません。ケーブル端子はKZ Cタイプ2pin、耳掛け時下が-です。
音質
箱出しは高音の主張が強めで低音が若干弱いです。エージングで高音の刺激がいくらか弱り低音も少し出てくるようです。
いつもはFiio X7 MarkⅡ(AM3D)やPC→DACで評価しているのですがTRN STMは駆動力が小さい方がバランスが良く、Fiio X7 MarkⅡ(AM3D)ではローゲインでも駆動力が大きすぎるのかハイ上がり気味です。そのため今回の評価環境はPC→Zishan Z3(AliExpress)のSlow、DAC接続で直差しです。
駆動力および相性の比較としてPC→aune BU1(Amazon/七福神商事公式)、Sabaj Da3(Amazon/AliExpress)、Fiio X7 MarkⅡ(AM3D)、Xperia X Performance、iPod touch(第7世代)も使用しました。音源は主にFLAC、他にAmazon MusicおよびYoutubeの動画なども使用しています。
ケーブルは付属ケーブル、イヤーピースは付属シリコンイヤーピース、左L右Mでしっかりめに押し込んでいます。音量の平均約52dB*1で聴いていきます。
- 1. 平均が出せるスマホの騒音計アプリで計測しています。
赤ノズル(Deep Bass)
個人的には一番印象が良かったので赤ノズルを基準に聴いていきます。赤ノズルは高音域を全体的に少し抑え、低音域~中音域辺りまでの変化はほとんどないようです。高音域が全体的に少し抑制されることで相対的に金ノズルよりも下の帯域が強まったように感じる人もいるかもしれません。
- 『高音の主張』は金属音などの目立ち具合です。
- 『アタック感』は低音のアタック感の音量的な強さ(ドンシャリのドンの強さ)です。
- 中高~高音域寄り
- 寒色系で若干硬質でドライ
- 抜けと見通しが良い
周波数特性チェック用のスイープ音源で耳で聞いてチェックした限りでは25Hzから下は音量的にかなり小さく、聴覚上は中高音域から高音域をピークにした右肩上がりに聞こえます。7.5kHzに高いピーク、ついで3.5kHzにもやや高めのピークがあります。中年の耳でも14kHzより上まで聴き取れます。
高音域は音量的に大きめに出ているわりに、赤ノズルに限っては刺激は強すぎず刺さりまくるということはないようです。中年の耳ではキンキンもシャリシャリもせず、演奏の中で金属音だけが大きく出すぎるということもありません。
高音の強さで解像度が高いように錯覚させようとしているというわけでもないようで金属系の楽器は案外チャリチャリしません。ただし寒色傾向が強いため必ずしも自然さは感じません。
中音域は凹みなく聞こえます。赤ノズルはボーカル帯域も少し抑えられるようですが分離が非常に良いため演奏に紛れることはなく、音量的に小さく聞こえるということもありません。ただし相対的に他の帯域との差が小さくなるからか全体的に音の距離が若干近くなったように感じます。
ボーカルは少しドライです。これには付属イヤーピースの影響もあります。他のノズルほどではありません。イヤーピースを変更することで軽減することはできます。機器との相性や駆動力で更にドライになることもあるため、基本的にはドライなボーカルが好きな人向きの音だと思います。
低音域は控えめというほどではなく十分に出ていて軽くも薄くもなくあっさりもしていません。引き締まっています。重低音は不足ない程度なため沈み込みはごく普通です。そのわりに重み不足ではなくパスパスと軽い音が出ることはありません。
定位も分離も良好ですが情報量が価格なりなのか音数が多いと細部が聞き分けづらくはなります。他のノズルよりも音の距離を近く感じやすいのですが抜けの良いバランスだからか音場はやや広めなままで、狭まった印象はありません。
青ノズル(Resolving treble)
青ノズルは高音のうち刺さりや刺激の原因になりやすい帯域を抑え、低音域~中音域辺りまでの変化はほとんどないようです。
- 高音の刺激が抑えられる
- 硬質感がやや抑えられる
- ボーカルのドライさが金ノズルよりは軽減
低~中高音域はほとんど変化がないようです。高音域で高いピークになっている帯域が少しずつ抑えられ刺激と硬質感が抑えられます。ボーカルのドライさも金ノズルほどではありません。
金ノズルのバランスが好みなものの硬質感とボーカルのドライさが強すぎると感じるなら青ノズルが良いと思います。
金ノズル(Balance & Natural)
最初に装着されている金ノズルはフィルターなしのノズルです。調整としては青ノズルが中間の音だと思うのですがあえて金ノズルが梱包時に装着されているのはTRN的に聴いて欲しい基準の音は金ノズルということなのでしょうか。
- 高音が更に寒色寄り
- 最も硬質感のある音
個人的には高音が強すぎ、プレーヤーの音量を高音に合わせることになるため低~中音域は普段よりもかなり小音量で聞いている状態になっています。
低音は他のノズルと変わらず出ているのですが高音が強いことと音量が小さいことでより低音が控えめに聞こえ、どうしても若干のハイ上がり感を感じてしまいます。刺さるような高音の刺激が強すぎるということではないので高音好きな人なら楽しく聞けるのかもしれません。
その他
ビルドクオリティ
TRNのイヤホンは未だにビルドクオリティ上の問題があるケースがよく報告されています。手元にあるTRN STMはハウジング自体は問題ありませんでしたがノズルの表側のフィルターが浮いているものがありました。押し付ければくっつきます。
また、使用するうちに付属ケーブルのプラグ付近の皮膜が剥がれてきました。銅線っぽいものが露出しています。画像をチェックしたところ箱出し時から剥がれ始めていたようです。私はリケーブルして使用するので大きな支障はありませんが、付属ケーブルで使う予定の人は到着時に剥がれ始めていないかチェックした方が良いでしょう。
装着感
装着感は良好です。私は耳穴入り口が広いこともあって付属イヤーピースでは小さめを選択すると装着が浅くなるため大きめを選んで押し込む感じに装着しています。
音漏れ・遮音性
TRN ST1のような大きめの背面ベントがないため音漏れは気になりません。遮音性は普通もしくは少し劣る気がしますがこれはTRNの付属イヤーピースも原因のひとつじゃないかと思います。変更することで改善します。
再生環境と駆動力
『音質』の冒頭で言及した通り、駆動力はむしろ小さい方が良いようです。Fiio X7MK2(AM3D)ではローゲインでも駆動力が大きすぎるのかハイ上がり気味になってしまいます。
付属ケーブル
付属ケーブルは焦げ茶色の被膜で覆われた4芯ケーブルです。商品説明には6N OCC(単結晶銅)であると書かれています。高音がよく出てボーカルが硬質感を持ちやすく低音が少し控えめなようです。
TRN STMは低価格帯のイヤホンなのでリケーブルやイヤーピース変更にあまりお金をかけたくはないのですが、個人的には赤ノズル(Deep Bass)でもまだ硬質感を感じて好みとちょっと違います。イヤーピースを市販のものに変えても大きくは改善できないため私はリケーブルしています。
リケーブル
ドライさや硬質感の軽減を目的に安さ優先で2千円以下のリケーブルから選ぶなら、おすすめはKBEARの4芯銅線ケーブル(Amazon/AliExpress)とFDBROの4芯銀メッキOFCケーブル(Amazon/AliExpress)です。
KBEAR 4芯銅線ケーブルは高音をやや抑えてウォーム傾向になりやすく、FDBRO 4芯銀メッキOFCケーブルは刺さりの原因になる帯域を少し抑えてくれます。
TRN ST1との比較
TRN ST1(AliExpress)はSTMのワンランク下の価格帯の低価格イヤホンです。音質傾向は中低音域寄りのややドンシャリ、ボーカルはややドライです。STMとほぼ同形状のハウジングですがフェイスプレート中央にベントが開いています。
フェイスプレートの厚みや凹凸が異なるためプレートが下になっている画像では重心が違っておりステムの角度等が違って見えるかもしれませんが、本体樹脂部分は同じ形状だと思います。ステムはノズルの分だけ少し太いようです。
ST1は抜けの良いチューニングに加えて背面ベントで更に音抜けの向上を図っているようですが、STMは大きなベントなしでST1を上回る抜けと見通しの良さを実現しています。
低音は明らかにST1の方が音量的に大きく、厚みや量も上回っています。中低域寄りのST1に対して中高~高域寄りのSTMは後継機とも上位機とも違うのではないかと思いました。
- 高音の主張:ST1 < STM
- 高音域の音量:ST1 < STM
- 中音域の音量:ST1 ≧ STM
- 低音域の音量:ST1 >> STM
- 低音の量:ST1 >> STM
- アタック感:ST1 < STM
- 付属ケーブルと付属イヤーピースで比較しています。
- 『高音の主張』は金属音などの目立ち具合です。
- 『アタック感』は低音のアタック感の音量的な強さ(ドンシャリのドンの強さ)です。
ST1の低音は初期装備ではやや膨らみがありタイトさに欠けるのですが、STMの低音は引き締まってタイトです。低音の質はSTMの方が良いと思います。
総評
TRN STMはやや硬質感のある高音とタイトな低音、抜けと見通しが良く冴えて明るい寒色系の音色です。高音を抑えるフィルター入りノズルが同梱された交換式ですが基本的には中高~高音域寄りのバランスで、どのノズルでもボーカルはドライ傾向です。
意外と質が良いのは低音です。音量的にはやや控えめで沈み込みもそこそこですが重みの方は十分で軽い音ではありません。膨らむことはなく引き締まっていますが薄いということもありません。
イヤホン自体が高音寄りなことに加えて付属イヤーピースも付属ケーブルも高音が強めに出やすく相乗効果的に高音が強すぎるように感じました。そのためフィルターなしの金ノズルは好みに合わず、私は付属ケーブルと付属イヤーピースで使用するなら赤ノズル一択です。
また、駆動力の影響なのかパワフルな機器ではハイ上がりになることも多いようです。スマホや低価格DAPなど非力なくらいの方がちょうど良いバランスで聴くことができました。
なおTRNのビルドクオリティは相変わらずツッコミどころゼロにはなってくれていませんでした。ハウジング自体は問題ありませんでしたが交換ノズルや付属ケーブルのクオリティに若干の問題があります。購入後は受け取り次第細部をチェックすることをおすすめします。
初期装備のTRN STMをおすすめできるのは、ドライなボーカルやすっきり寒色系な音色が好みな人です。駆動力をあまり必要とせずスマホ直差しや低価格DAPをメインに使用しているライトユーザーにも向いています。
逆に初期装備のTRN STMをおすすめできないのは、ドンドン強い低音が好きな人、もしくは強くはなくとも重厚な低音が欲しい人、ドライなボーカルを好まない人です。
TRN STMのレビュー、第2回におすすめイヤーピース編の予定ですが、付属ケーブルと相性の良いイヤーピースが多くなさそうなのでリケーブルとまとめておすすめカスタマイズ編になるかもしれません。