久々のレビュー記事、今回はHZSOUND Heart Mirror『心鏡』のレビューです。外装画像等のレビューがご不要であれば『音質』から後ろ、もしくは『総評』だけご覧ください。
- 耳の形状や装着の具合によって必ずしも私と同じ聴こえ方になると限りません。ご了承ください。
- イヤホンレビューの見方や用語の説明などは『当ブログのイヤホン・ヘッドホンレビューの見方(2018/10/24版)』をご覧ください。
目次
製品仕様
- ブランド:HZSOUND
- 型番:Heart Mirror(心鏡/裏鏡)
- ドライバ構成:1DD
- インピーダンス:32Ω(±15%)
- 感度:106±3dB
- 再生周波数帯域:15-40000Hz
- ケーブル端子:2pin 0.78mm
- DDは10mmカーボンナノチューブ
- 付属ケーブルは銀メッキOFCケーブル
- ハウジングは亜鉛合金
外箱は製品画像のみのシンプル仕様です。同梱物にセミハードケースが含まれるので少し大きめ。
付属品は銀メッキケーブル、シリコンイヤーピース2種類各3サイズ、ウレタンイヤーピース1種類1サイズ、セミハードケース、カラビナ、ケーブルクリップです。イヤーピースは黒シリコンが低音強調+高音減衰タイプ、クリアシリコンがバランスタイプ、ウレタンが音場広め+明瞭タイプとのこと。
亜鉛合金のハウジングは少しだけ重みがあるものの装着してしまえば全く気になりません。鏡面仕上げできれいですが傷と汚れはかなり付きやすいです。ノズル先端のフィルターは金属メッシュです。
ノズルには適度に角度がついていて長さもあり、装着しやすいです。
音質
箱出しは金属音がシャリシャリ気味の中高~高域寄りでしたがエージング数時間後にはシャリ付きは解消し、その後低域が強まり厚みが出てきました。箱出しでシャリ付きと低音不足を感じるなら1日程度鳴らし込むと良さそうです。
評価環境はFiio X7 MarkⅡ(AM3D/可聴帯域外フィルタ:Slow Roll Off Minimum Phase)、ハイゲイン音量17前後(付属クリアシリコンイヤーピース使用時/ほとんど騒音のない屋内で平均50~51dB*1)で聴いていきます。
- 1. 平均が出せるスマホの騒音計アプリで計測しています。
駆動力および相性の比較としてPC→iFi Audio ZEN DAC*2(公式製品情報/Amazon)、PC→aune BU1*2(代理店サイト/eイヤホン/ヨドバシ)、Xperia X Performance、iPod touch(第7世代)も使用しました。音源は主にFLACです。他にAmazon MusicおよびYoutubeの動画なども使用しています。
- 2. PCからの再生はfoobar2000+WASAPI(event)
付属シリコンクリアイヤーピース
付属ケーブル、付属シリコンクリアイヤーピース(以下、付属クリア)で聞いていきます。イヤーピースは左L右Mで耳に押し付けすぎない程度の深さで装着しています。商品説明にこのイヤーピースはバランスタイプと書かれていますが実際は低音をわずかに増幅気味です。
- 『高音の主張』は金属音などの目立ち具合です。
- 『アタック感』は低音のアタック感の音量的な強さ(ドンシャリのドンの強さ)です。
- フラット傾向
- 沈み込み深め
- 明瞭で透明感がある
- 音場広め
周波数特性チェック用のスイープ音源とトーンジェネレータで耳で聞いてチェックした限りでは2kHz辺りが少しだけ盛られ、5kHzと8kHz辺りに高いピークがあります。低域は65Hz辺りから減衰し始め20Hz以下まで聴こえます。
高音域は主張は適度かわずかに強め、中年の耳では刺さるほどではありません。透明感があり明るく、解像度もやや高めで伸びも十分です。音の輪郭がキリッとしていていくらか硬質感はあるものの不自然さは感じません。
金属音がきらびやかかつ比較的リアルな鋭さを持ちつつも音量的に強すぎる主張はしていません。シンバルを叩くスティックの強弱も細やかに再現されています。
中音域は気になる凹みはなく不自然に遠い音は生じません。ボーカル帯域はほんの少し盛られているようで、音量的に小さめに感じたり演奏よりやや下がりやすいような楽曲でも適度な距離感で聴こえてきます。人の声や物音も比較的現実の音の高さに近いと思います。
ボーカルの歯擦音には不快感があるほどではなく、ブレスがうるさいこともなく、ハスキーなボーカルも荒くならず、しかし息づかいが失われすぎておらず一定のリアリティがあります。強いて言うなら若干蛋白な印象はあるかもしれません。
低音域はこのイヤーピースにより少し増幅気味になっています。そのためHeart Mirror本来の実力よりも若干明瞭さに欠け音の輪郭も緩めです。しかし市販イヤーピースでは細やかさが犠牲になることもあり選択が意外と難しいです。明瞭さと見通しの良さはぐっと向上しますので、手持ちのものを一度試してみるのは良いと思います。
超低域は低域の音量的な大きさと比較し場合には少しだけ強めに出ており20Hz以下まで聴こえます。沈み込みは深めで芯と適度にどっしりとした重みと少しの濃さがありほどほどに伸び、楽器の音色に十分な低音成分が与えられるのを感じることができます。
分離は良好です。映画でBGM、歌声、物音、脇役の声が入ったシーンを観ていてもそれぞれの音をすべて聞き取ることができます。分離が良すぎて浮く音もありません。
定位も良好です。ピタッと決まりすぎているのでもなく曖昧なのでもなく、比較的自然だと思います。また一部の安価なイヤホンではゲームやバイノーラル音源の前方側の音が左右の音より小さくなり前方で鳴っているようにはあまり感じられないのに対し、Heart Mirrorは前方っぽさが感じられる方だと思います。
アコースティック、エレキに関わらず楽器の音色は非常に良好で再現性も高いです。弦楽器の擦れる音やトランペットの金属の響き、打楽器に当たるスティックの音などを強すぎず弱すぎず聴き取ることができます。
残響はほんの少しだけ短めです。ですが残響2秒の大ホールで録音された音源で体感1,7秒くらいは聴き取ることができ、極端に短すぎる印象はありません。この点についてはイヤーピース変更でより音源通りにも近づけられるようです。付属クリアイヤーピースでもホール録音なら響く楽器の音、ボーカルのマイクが拾う周囲の空気感もまあまあ伝わってきます。
音場はX7MK2(AM3D)のハイゲインでは普通で音の抜けの良さにも不満はありません。しかしHeart Mirrorにはもっと高い実力があります。残響と音場を実力通り引き出すには駆動力が必要です。駆動力のあるアンプを使うと音場がやや広がり、音の抜けの良さが更に向上します。
付属シリコンブラックイヤーピース
ケーブルは付属ケーブル、イヤーピースは付属シリコンブラックイヤーピース(左L右M)でベント穴が塞がらない程度に深めに装着しています。商品説明によるとこのイヤーピースは低音強調+高音減衰タイプで、確かにそのような傾向が聴き取れます。
- 低音が強まる
- 高音の刺激は抑えられる
- やや濃いめの音色になる
低音が変に強まり、それに対して高音は若干弱いためバランスが良くないと感じます。ボーカルに濃さが出るのは魅力的な気もしますが明瞭さは低下しややぼやっとします。あまり相性が良いとは言えません。
付属フォーム素材イヤーピース
付属フォーム素材イヤーピースは表面が熱加工されておりややツルっとしているタイプです。しかし私の左耳には若干細く、きっちり塞ぐことができませんでした。そのため評価はなしです。
その他
装着感
小ぶりでステムもやや長めなので装着感は良いです。ただしあまり耳に押し付けてしまうとステムの根元のベント(通気穴)が塞がってしまうことがあるためその点だけ注意したほうが良さそうです。
音漏れ・遮音性
ベント(通気穴)は2ヶ所開いています。いずれも内側なので音漏れへの影響は小さいです。遮音性はやや良好です。
再生環境と駆動力
駆動力が大きい方が高音が強く出ます。パワーのあるアンプを使用するとシャープな音色になりやすいです。逆に駆動力が小さい機器では高音が緩んでしまい残響は短くなって音場の広さも抜けの良さも低下してしまいます。ある程度の駆動力があるDAPのハイゲイン設定であってもアンプを使用した方が音質が向上したと感じられる可能性が高いです。
付属ケーブル
付属ケーブルは4芯銀メッキOFCです。2pinコネクターのイヤホン側は埋め込みタイプですがハウジング側のくぼみはごく浅く、ピンの根本に段差のない非CIEMケーブルでも刺さります。付属ケーブルは音場に開放感が出やすくHeart Mirrorとの相性は良いのでリケーブルしなくても満足できる人は多いでしょう。
ただし超低域がわずかに弱いためかイヤーピースを市販品に変更した際には相対的に高音が若干強くボーカルの低音成分が少なめに感じられる場合があります。
他のイヤホンとの比較
MOONDROP KXXS
MOONDROP KXXS(Amazon 18,745円)は10mmDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)振動板搭載ムーヴィングコイルユニットを採用した金属ハウジングのイヤホンです。フラット傾向の美音系として高く評価されています。
- 高音の刺激:Heart Mirror > KXXS
- 高音域の音量:Heart Mirror > KXXS
- 中音域の音量:Heart Mirror ≒ KXXS
- 低音域の音量:Heart Mirror < KXXS
- 低音の量:Heart Mirror < KXXS
- アタック感:Heart Mirror ≒ KXXS
実在感、リアリティに価格相応の差があり、KXXSが断然上です。クラシックコンサートを録音した音源に含まれる観客の服の衣擦れや物音に思わず振り返ってしまいます。
しかしHeart Mirrorも健闘しており、KXXSから続けて聴き比べてみるとその明るい透明感と抜けの良さが際立ちます。比較するとKXXSの方がやや低音が強いこともあって落ち着いたリスニング的な音色、Heart Mirrorは細部をくっきりと描写するモニター的な音色だと思います。
KBEAR Hi7
KBEAR Hi7は2019年夏頃に発売された6BA+1DDのハイブリッド型イヤホンです。2019年夏にAliExpressで福袋として1万円弱で販売開始されました。アルミニウム筐体にスリット状の背面ベントが開いた半開放型で抜けが良く、すっきりと明瞭な中高域寄りの弱ドンシャリ傾向のイヤホンです。AliExpress、Amazonでは販売終了していますがHiFiGoにはまだ在庫があるようです。
- 高音の刺激:Heart Mirror < KBEAR Hi7
- 高音域の音量:Heart Mirror ≦ KBEAR Hi7
- 中音域の音量:Heart Mirror ≒ KBEAR Hi7
- 低音域の音量:Heart Mirror ≦ KBEAR Hi7
- 低音の量:Heart Mirror ≦ KBEAR Hi7
- アタック感:Heart Mirror ≒ KBEAR Hi7
音域バランスはやや似ているもののKBEAR Hi7の方が低音も高音も強めで更に元気です。低音も背面ベントで抜ける分に負けないだけの音量で出ています。しかしドーム型のハウジング形状で耳の形状との相性が悪いと装着が浅くなり、低音不足もしくは高音が強すぎると感じるかもしれませんね。
KBEAR Lark
[2021/07/25 追記] KBEAR Larkのレビュー記事内でHeart Mirrorとの比較をしています。
- 2021/07/24 [レビュー] KBEAR Lark (1) 揚げヒバリがさえずるような晴れやかさと素直さ
総評
- 高い透明感
- 低~中低域の締まり、中域のリアリティ、中高~高域の明るさ
- 開放的な音場と抜けの良さ
- 楽器の音色の細やかさ
- ハウジングは汚れやすく傷つきやすい
- 本領発揮するために駆動力が必要
聴覚上は低音が少し控えめのやや中高域寄りフラット傾向ですが、超低域が十分出ていることと付属シリコンイヤーピースはいずれもやや低音を増幅気味なため初期装備なら低音にもさほど不足は感じないのではないでしょうか。付属イヤーピースとの相性が良いのはクリアのイヤーピースの方だと思います。
超低域の適度な重みと伸び、締まりのある低~中低域、中域のリアリティ、中高~高域の明るさ、全体の透明感と抜けが良く開放的な音場感がよくまとまっています。AliExpressなら$50以下、Amazonでも6千円台で購入できるイヤホンとしては非常に優秀であると思います。
個人的には特に楽器の音が素晴らしいと感じました。弦楽器の弦が擦れる音、金管楽器の管が震える音、スティックで叩かれたハイハットが振動して音が広がる様など、細部の描写力が高く、しかし騒がしくはありません。
この細部の描写力は付属ケーブルと付属シリコンクリアイヤーピースで最も良好に引き出されました。リケーブルによってボーカルの生々しさが向上したり、イヤーピース変更によってより音源通りの残響になったりもするのですが細かい音が弱って聴こえなくなってしまうことも多いです。これをキープしつつカスタムするのは案外難しいのでは…。
また、実力を存分に発揮させるためには駆動力が必要です。評価の基準にしたFiiO X7MK2(AM3D)の3.5mm直挿しではハイゲインでもパワー不足だと感じました。いわゆる『鳴らしにくい』という印象はないのですが、高駆動力な再生環境とそうでない環境では明らかな違いがあります。スマホや低価格DAPでは真の実力は引き出せないでしょう。
ネット上で不良品報告も見かけませんので基本品質は良好だと思います。
初期装備のHZSOUND Heart Mirrorをおすすめできるのは、フラット傾向で低音が強くない、楽器の音を良好に再現するイヤホンが欲しい人です。同価格帯では初期装備でも解像度が高く細かい音も聞き取れるためモニター用途にも向いています。
逆に初期装備のHZSOUND Heart Mirrorをおすすめできないのは、ウォームな音色が好み、中華イヤホンの個性的なドンシャリが好き、スマホや低価格DAPなど駆動力が小さい環境での直挿し使用を想定している人です。
- *2021/07/25 KBEAR Larkのレビューで比較した旨とリンクを追記