今回はKZ ZAXのレビューです。第1回は箱出しからエージング終了後までレビューして行きます。外装画像等のレビューがご不要であれば『音質』から後ろもしくは『総評』だけご覧ください。
- イヤーピース変更の提案もしていますが、耳の形状によっては必ずしも私と同じ感じ方になると限りません。ご了承ください。
- イヤホンレビューの見方や用語の説明などは『当ブログのイヤホン・ヘッドホンレビューの見方(2018/10/24版)』をご覧ください。
目次
製品仕様
- ブランド:KZ
- 型番:ZAX
- ドライバ構成:7BA+1DD
- インピーダンス:24Ω
- 感度:113dB
- 再生周波数帯域:10-40000Hz
- ケーブル端子:2pin 0.75mm KZ Cタイプ
- KZ ZAX
- 7,280円+5%OFFクーポン– WTSUN Audio 9/30
- $60-62– Wooeasy Earphones 9/30
- DDは10mmの二重磁気
- BAは高域30095(ステム内)、中域50024x2x2、中高域30019×2、
外箱は黒箱仕様です。
同梱物は銀メッキケーブル、KZ標準溝入りイヤーピース1種類3サイズのみです。
スリット状に穴が空いたフェイスプレートの先にはメッシュ状のシートが見え、ベントになっています。
色付きクリアカラーのハウジングの中にはドライバがぎっしりと詰め込まれているのが見えます。見えない部分ではステム内に高域用BAの30095が1個配置されています。
音質
評価環境は主にFiio X7 MarkⅡ(AM3D)です。ハイゲイン音量16~20(付属溝入りイヤーピース使用時/大きな騒音のない屋内で平均50~52dB*1)で聴いていきます。
- 1. 平均が出せるスマホの騒音計アプリで計測しています。
駆動力および相性の比較としてPC→aune BU1(Amazon/七福神商事公式)、Zishan Z3(AliExpress)、Xperia X Performance、iPod touch(第7世代)も使用しました。音源は主にFLAC、他にAmazon MusicおよびYoutubeの動画なども使用しています。
初期装備(付属品)
ケーブルは付属ケーブル、イヤーピースは付属シリコン溝入りイヤーピースです。左L右Mで耳奥に押し付けすぎない程度に深めに装着しています。
多くのイヤホンは浅く装着すると高音側に寄って聞こえることが多いのですが、ZAXと付属溝入りイヤーピースでは逆に深く装着した時に7.5kHzの高音のピークが高めに聞こえるようになることがあるようです。浅く装着する人は私が聞いているよりもいくらかフラット寄りに聞こえるかもしれません。
また、装着や機器との相性で高音が弱るものの低~中音域は大きく変わりにくいため相対的に少し低音寄りに感じられることもあります。
- 『高音の主張』は金属音などの目立ち具合です。
- 『アタック感』は低音のアタック感の音量的な強さ(ドンシャリのドンの強さ)です。
- ややドンシャリ傾向
- 低音の沈み込み深め
- 適度な残響
- 音場はやや広め
- 若干意図的な立体感
周波数特性チェック用のスイープ音源とトーンジェネレーターで耳で聞いてチェックした限りでは低音側にも高音側にも寄り具合が小さく、ボーカル帯域が少し盛ってあり、低いピークが2kHz前後と4.5kHzと5.5kHz、高いピークが7.5kHz辺りにあるようです。重低音は20Hzより下まで聞こえますが音量的にはかなり小さいです。
高音域はすっきりと明るめで伸びが良いです。解像度は高めです。付属銀メッキケーブルは元々がアップグレードケーブルだっただけあり、KZ標準撚り線OFCケーブルで聴くよりもぐっと解像感を底上げしています。しかしこのケーブルは低音が少し減衰気味であるためシンバルの音に低音成分があとちょっとだけ足りない、もしくは高音が強くてちょっとだけ細っているように感じられます。
高音の楽器が目立って主張するということはないのですが刺激はやや強めなようで、耳の若い方は高音に強めの刺激を感じる可能性はあるかもしれません。中年の耳では刺さるほどではありません。しかし長時間使っていると聞き疲れることがあります。
このケーブルは高音の刺激が少しキツめに出やすいため、高音の刺激が気になるようならリケーブルするか、予算不足ならイヤーピース変更だけでもいくらか緩和できます。また、前述した通り装着位置を少し変えるだけで解消する可能性もあります。
中音域は遠い音があると感じるような凹みはなく、ボーカル帯域は盛ってあるようでボーカルがよく聞こえ、演奏もしっかり分離します。演奏が極端に下がって聞こえたり広がって聞こえたりすることはないのに層が別れているような、意図的な立体感が感じられます。
ボーカルが下がりやすい楽曲でも適度な距離感で聞こえます。歯擦音の不快感はありません。また、今季発売されたメジャーな中華ブランドのイヤホンにはボーカルがドライなものがいくつかありましたがZAXは少し硬質ではあるもののドライというほどではなさそうです。
ZAXの中~中高音域はBA数が多いので濃くなったり音の重なりを感じやすいかと思いきや、すっきりしていて非常に明瞭です。ボーカルがこもりやすい楽曲でも不満を感じません。
低音域は下の帯域から出ていて重低音の伸びも良く、沈み込みは深めです。ベースラインは強すぎず、重低音ほどは伸びませんが低音の楽器の抑揚はうまく表現されています。解像度はやや高めだと思います。
アタック感は音量的にやや強めで、立ち上がりの速さは普通です。残響音は音源通りとまでは行きませんがKZおよびCCAのイヤホンの中ではとても伸びやかで楽器演奏がきれいです。ただしこの残響音の長さには付属銀メッキケーブルの影響があり、リケーブルすると衰えることがあります。
分離は非常に良好、見通しと抜けが良く音場はやや広めです。定位は不自然ではないもののやや意図的な立体感のある音作りのせいかバイノーラル音源動画で確認した時に物音が若干後頭部寄りに感じられます。音楽を聞いていて違和感を感じるほどではありません。また、イヤーピース交換でより自然な定位になるので調整の余地はありそうです。
付属銀メッキケーブル+スパイラルドット
いくつか試して印象が良かったスパイラルドット(Amazon)でも聴いていきます。高音の解像度が向上し音は伸びやかで音場が広く感じられることが多いイヤーピースです。左M右Mでやや深めに装着しています。
- 高音の解像度高め
- 硬質感が緩和
- 沈み込み深め
- 伸びやか
意図的な印象の音場の立体感が自然な範囲になり定位が良くなります。硬質感は緩和しボーカルがより自然になります。
沈み込みは深いままですが低~中低音域がごくわずかに抑えられるのか特に中低音域の明瞭さが向上します。沈み込みを浅くせず自然さを向上させバランスが良いと思います。
KZ標準撚り線OFCケーブル
他のKZおよびCCA機と比較するため、以前から付属しているKZ標準撚り線OFCケーブル(茶色い付属ケーブル)で聴いてみます。イヤーピースは付属イヤーピースを左L右Mで押し付けすぎない程度に装着しています。
- 高音の刺激が少し弱まる
- 低音が少し強まる
- 金属音の解像度がやや落ちる
- 沈み込みは少し深まる
音域間のバランスは付属銀メッキケーブルとさほど変わらないのですが、高音の刺激が弱り硬質さもやや抑えられます。重低音が少し強まり沈み込みが深くなり、低音の厚みと太さが増してどっしりします。
低音が強まったせいか付属銀メッキケーブルよりは若干ボーカルが下がり気味に感じられ、音場の立体感も劣ります。抜けの良さと明瞭さ、低音の解像度が衰え、リケーブルは必要だなという気持ちにはなりますね。
やはり解像度の面では付属ケーブルを銀メッキケーブルに変更した効果は高いと思います。ただし硬質さが出て若干デジタルチックな音色にしているのも付属銀メッキケーブルなため、リケーブルした方がより自然で聞きやすくはなりそうです。
その他
装着感
装着感はKZイヤホンとしてはやや良好です。ハウジングにもフェイスプレートにも尖った角がない形状なので実際のサイズよりも小ぶりに感じられます。
フェイスプレート以外の形状はKZ ZSN Proなどと同形状です。ステムには十分な長さがあり、深めに装着した時にも浮いてきたりすることはありません。
音漏れ・遮音性
耳に当たる側にベントが小さく2ヶ所開いています。フェイスプレート側のスリットはセラー回答では全面ベントとのことです。コメント欄からも分解した方から全面ベントだったとの情報を頂いています。ベントからは音漏れがあり、遮音性にも影響しています。
再生環境と駆動力
駆動力が小さいと特に高音の7.5kHz辺りの強さが弱るものの低~中音域の音量バランスはあまり変わらないため、相対的に低音域側に少し寄ったように感じられます。タイトさも衰え、駆動力のある環境で鳴らした時よりもぼやっとします。
スマホ直差しでも音量は取りやすくドライバ数を考慮に入れると鳴らしやすいとは思うのですが、そこは8ドライバなりに差を感じます。やはり実力を出すのにある程度のパワーは必要で、しかしパワフルすぎると高音の刺激が強めに感じられることがあります。
スマホなどライトな環境に直差しで使用したいならすっきりめのケーブル、逆にパワフルなDAPなら高音の主張が強まりにくいケーブルを使うことでバランスが良くなります。
付属ケーブル
付属ケーブルは今季のKZおよびCCAイヤホンに多く付属し始めた銀メッキケーブルです。以前は別売りアップグレードケーブルとして購入する必要がありました。
今まで付属していた撚り線OFCケーブルよりも重低音がやや弱く高音はわずかに強めで伸びが良いです。ZAXとの組み合わせでは解像度と明瞭さの底上げに役立っています。
残響音が少し長めに響く傾向があり、リケーブルすると伸びが衰えたように感じられることがあります。この部分を保つことができる中華リケーブルはあまり種類が多くはないためキープしたいなら選択肢が限られそうです。
他のイヤホンとの比較
CCA CA16
CCA CA16(Amazon/AliExpress)は今年発売されKZ ZAXと同じく7BA+1DDの多ドライヤホンです。リケーブル編を含め全5回でレビュー記事を書いています。
CA16は濃厚で力強いドンシャリです。ケーブルは撚り線OFCケーブル、イヤーピースは他のKZおよびCCA機には採用実績のないクリアカラーのシリコンイヤーピースが付属しており、初期装備では高音も低音も弱り気味になってしまっています。加えて若干鳴らしにくいため7BA+1DD相応の再生環境とリケーブル(できればイヤーピース交換も)が必須です。
CA16のハウジングはかなり厚みがあります。比較したときにはZAXはだいぶ小ぶりです。
力強いものの解像度は極端には高くないCA16と、明瞭で高解像度なZAX。CA16の方がドンシャリが強めで低音の量が明らかに多いこともあり、かなりキャラクターは異なります。
付属ケーブルの線材がCA16は銅線なのに対しZAXは銀メッキ線で異なるため初期装備で比較するとその影響があります。以下はそれぞれの付属ケーブルと付属イヤーピースで比較しているため高音域の音量は大差ないとしていますが、実力的にはCA16の方が強いです。ただし高音の刺激はZAXの方が強いです。
- 高音の刺激:CA16 < ZAX
- 高音域の音量:CA16 ≒ ZAX
- 中音域の音量:CA16 ≦ ZAX
- 低音域の音量:CA16 >> ZAX
- 低音の量:CA16 >>> ZAX
- アタック感:CA16 ≦ ZAX
- それぞれの付属ケーブルと付属イヤーピースを使用した状態での比較です。
CCA C10 Pro
CCA C10 Proのレビュー記事内でKZ ZAXとの比較をしています。
総評
イヤーピースの装着位置の違いで高音のピークの高さのバランスが変わりやすいです。駆動力の違いによる変化も大きいため弱ドンシャリからドンシャリまで人によって多少異なる評価が出る可能性があるものの、付属銀メッキケーブルと付属溝入りイヤーピースではややドンシャリと感じる人が多いのではないかとは思います。
銀メッキケーブルの影響もあって若干硬質感があり明るくややクール、見通しが良く明瞭で分離は非常に良好、適度な伸びもあります。楽器演奏もボーカルも気持ち良く聴くことができ、分析的な聴き方をすることもできます。
高音は主張しすぎず金属音が目立ちすぎたりキンキンシャリシャリすることはないのですが高音のピークに結構高い部分があるため刺激はやや強めなようです。中年の耳では少し聞き疲れるような気がする程度で不快感はありません。
基本的には付属銀メッキケーブルとの相性は良く、気に入っているなら無理にリケーブルする必要はないかもしれません。
しかし高解像度なことに加えてクールな硬質感のせいか自然さの方はいまひとつです。解像度を上げているのも付属銀メッキケーブルですが、高音の刺激の強さと硬質感を強めているのもこのケーブルです。この点が不満ならリケーブルをおすすめします。
また、特に駆動力の小さい再生環境ではZAXの実力よりも低音寄りかつ音がぼやけている可能性があります。期待したほど高解像度だと感じないなら、すっきりめなケーブルへの変更を検討してみても良いと思います。
まだ数本しか試せていませんが、今のところ相性が良いと感じたのはKBEAR Limpid(簡易レビュー/AliExpress)です。AmazonではKBX4904(Amazon)として販売されています。イヤーピースはスパイラルドットを選択しています。高音の刺激が少し和らぎつつも大きくはバランスを変えず、沈み込みと残響をキープしてくれます。
初期装備のKZ ZAXをおすすめできるのは、硬質感のあるクールな音色が好みな人、解像度が高めで分析的な聴き方ができるイヤホンが欲しいけれどフラットでモニターライクすぎるのは好みと違うという人、付属品だけで使用したいと考えている人です。
逆に初期装備のKZ ZAXをおすすめできないのは、高音の刺激はあまり強くない方が好き、ウォームな音色や極力現実の音に近い自然さを求める人です。
着実にレベルアップしているKZの企業努力を感じました。しばらくの間有線イヤホンの発表がなく今後はTWSに注力するのかと残念に思っていたところ、夏以降レベルアップした新作が次々と出てきているのはうれしいですね。
個人的には今季メジャーな中華ブランドから発売されたイヤホンの中では特に印象が良い1本です。沈み込みの深さと適度な残響で生楽器の音色がきれいに伸びること、高音が主張しすぎないのに刺激はきちんとあること、ボーカルの距離感が適度で下がりにくいことなどがとても気に入っています。
KZ ZAXのレビュー、次回はおすすめイヤーピース編を予定しています。CCA CA16(レビュー)のようにおすすめリケーブル編との合体になるかもしれません。準備に時間がかかるため間に別のイヤホンのレビューを挟みます。ご了承ください。
- KZ ZAX
- 7,280円+5%OFFクーポン– WTSUN Audio 9/30
- $60-62– Wooeasy Earphones 9/30
- 2021/07/31 『音漏れ・遮音性』の項にベントに関するセラーの回答を追記
コメント
何時も拝見し参考にしております。楽しい情報提供ありがとうございます。
ZAXを初めて聴いた印象は高音がスッキリしてるが中低音も出しゃばらない良い塩梅で、聴いて楽しいと思いました。
詳細に分析されてますが全くその通りですね。イヤピースやケーブルでドンシャリからフラットよりまで変わりますが、ヌケのよい音は共通してると思います。
zstxの淡白さをゴージャスにした音という印象を持ちました。ZAX聴くまではこの手のイ9ヤホンではVXが最良と思ってましたが、ZAXに比べるとボリューム感が足りないと感じ始めております。ZAXですがイヤピースはTFZ付属の細長いタイプ、ケーブルはkbx4905でリッチな音を楽しみ、あっさりとした音で聴きたい時はTFZの付属の銀メッキ線を使っています。
また、C10proも注文済みなので、ZAXとの比較を含めた評価楽しみにしています。
これからもよろしくお願いします。
いつもご覧くださっているとのこと、ありがとうございます。
TRN VXも、あっさりめではありますが出来の良いイヤホンですよね。ただTRNは一時良くなったかと思われたビルドクオリティが夏頃からまたかなり怪しいので対処に慣れた人でないと勧めにくいのが残念なところです…。
TFZの付属ケーブル、試してみましたが確かに合いますね。良いことを聞きました。情報ありがとうございます!
あのTFZのケーブルTFZとの相性が何時もイマイチなので、TFZ買うたびに別のケーブルに付け替えています。しかし、捨てる神あれば拾う神ありありでkzイヤホンには割と相性がいいんで何時もTFZ買うたびに転用しています。
参考になれば幸いです。
メッシュのとこなのですが、試しに髪の毛を挿してみたら中まで入っているのが透けて見えたので多分全面ベントだと思います
ホントですか!元々あまり目が良くない上に年のわりに老眼が強いのでその方法での確認は私にはちょっと厳しいです…。
中国は休みに入ってしまうのでしばらく返事が来ませんが、やっぱり一度セラーに問い合わせてみますね。本文には後で注意書きを入れておきます。情報ありがとうございます。
ZAX分解しました。
メッシュシールの下に蓋などなく全面ベントです。 ドライヤーで15分ぐらい熱すると背面蓋が浮いてきます。
全面ベントですか。口をつけて息を吹き入れても通気している感覚がないポイントがあるので全面ではないかなと思っていたのですが…。情報ありがとうございます!