今回はHZSOUND Heart Mirror Proのレビューです。外装画像等のレビューがご不要であれば『音質』から後ろもしくは『総評』だけご覧ください。
- 提供品ではありません。Amazonにブラックが入荷した直後に購入した初期ロット(たぶん)です。
- 私の耳は耳穴入り口付近から外耳道が太めです。これまでの経験上、深く装着しすぎるとバランスが崩れるイヤホンも少なくないためアジア人の平均から外れる程度には太めではないかと思います。
- 外耳道閉館共振帯域は意図的にずらさない限りはたいてい7.3~7.4kHzです。
- イヤーピース変更の提案もしていますが、耳の形状によっては必ずしも私と同じ感じ方になると限りません。ご了承ください。
- イヤホンレビューの見方や用語の説明などは『当ブログのイヤホン・ヘッドホンレビューの見方(2018/10/24版)』をご覧ください。
製品仕様
- HZSOUND Heart Mirror Pro
- Yinyoo-JP 10,999円+10%
- Wooeasy Earphones Store $79.99+2%OFF
- 振動膜はCNT(カーボンナノチューブ)
- シルバーは電気メッキクロム加工、ブラックは金属塗料吹き付け加工
同梱物はマイクなしケーブル(プラグ交換式 2.5mm/3.5mm/4.4mm)、マイク付きケーブル、シリコンイヤーピース3種類各3サイズ、フォームイヤーピース1種類1サイズ、セミハードケース、カラビナです。
ハウジングはブラックとシルバーの2種類です。ブラックはシルバーは電気メッキクロム、ブラックは塗料が吹き付けられています。響き具合が違う可能性は高いと思います。
付属ケーブル
HZSOUND Heart Mirror Proにはプラグ交換式のマイクなしケーブルとマイク付きケーブルの2本が付属します。
マイクなしケーブルは超低域が若干強く濃厚な音色になりやすいようです。そのためリケーブルすることで特に低音を中心に印象が変わる可能性があります。
マイク付きケーブルはマイクなしよりも超低域が少し弱く高音の伸びが良いです。低音が音量的に弱るため、すっきりめが良いなら案外マイク付きケーブルの方が好みに合うかもしれません。マイク付きの方が好みなものの低音不足を感じる、という場合は付属シリコン黒イヤーピースの使用をおすすめします。
付属イヤーピース
HZSOUND Heart Mirror Proにはシリコンイヤーピース3種類各3サイズ、フォームイヤーピース1種類1サイズが付属します。
Heart Mirror Proのドライバーは機器の出力の影響で音域バランスに影響が出やすいです。しかし4種類付属するイヤーピースを機器によって変えることでバランスを整えることができます。
音質
エージング
箱出しは中低域寄りだったのですがエージング50時間を超えた辺りからニュートラルになって行きました。中低域寄りでもバランスが悪いわけではなかったので気にしないならエージングしなくても良いかもしれません。私はレビュー前に200時間鳴らしています。
装着位置
私の耳では耳にぴったりくっつける深めの装着が良いようです。イヤーピースはLサイズを選択することが多いのですがHeart Mirror Proでは左右ともMサイズを使っています。
評価環境
音源は主にwavとFLACです。Amazon MusicおよびYoutubeの動画も使用しています。
主な評価機器は以下の通りです。PCからの再生はfoobar2000+ASIOです。
- FiiO Q5s Type-C (AK4493EQ *2 / 220mW~@32Ω)⇒詳細
- Hiby R6Pro (ES9028Q2M *2 / 245mW+245mW@32Ω)⇒詳細
- Cayin N3PRO (AK4493EQ *2 / 3.5mm 250mW 真空管使用時 130mW@32Ω)⇒詳細
- iFi Audio ZEN DAC (Bit-Perfect DSD & DXD DAC by Burr Brown / 2.1V)
- TempoTec V6 (AK4493SEQ *2 / 3.5mm 330mW@32Ω)⇒詳細
- XDUOO Link2 Bal MAX (CS43131 *2 / 3.5mm 200mW@32Ω)⇒詳細
- Questyle M15 (ES9281AC / 11.97mW@300Ω)
- FiiO K7 (AK4493SEQ*2 / 6.35mm ≧1220mW@32Ω)⇒詳細
- Xperia 1 ii (オーディオ詳細不明)⇒詳細
使用しているケーブルおよび変換アダプターは以下の通りです。
- ddHiFi TC09S (データ線と電源線分離型ケーブル:データ線 純銀Litz線/Litz OFC+銀メッキLCOFCシールド) ⇒ 製品情報[英語] / Amazon / AliExpress
- AIM電子 USAC-005 (OFC+純銀コート/SPセパレートフラット構造)⇒公式製品情報
- FURUTECH GT2Pro USB B Type (純銀メッキα-OCC導体)⇒公式製品情報
- FURUTECH F63S-G (6.35nn-3.5mm変換プラグ)⇒公式製品情報
付属マイクなしケーブル+付属シリコンクリアホワイトイヤーピース
まず周波数特性チェック用のスイープ音源とトーンジェネレーターで耳で聞いてチェックして行きます。下は20Hz以下から聴こえるものの24Hz以下は音量的に小さめ、低域から中高域に向かって緩やかに右肩上がり、400Hzが浅く谷になりつつ激しい凹みはなし、中高域に向かって更に強まり4~4.5kHzやや強め、7.3kHzに私の外耳道閉管共振、上の帯域は極端にガクッと落ちてはいません。
箱出し時は中低域寄りだと感じていましたがエージングでよりニュートラルな聴覚上フラット寄りに近づきました。バランスを変えにくいKBEAR 07で確認すると中低域の量が減って更にすっきりとしたニュートラル寄りです。
高音域は刺さるちょっと手前くらいで刺激的すぎず、厚みと量がありつつもすっきりと明瞭です。抑揚は価格相応ですが伸びやかで、硬さを感じません。
中音域には厚みと少しのふくよかさがあります。装着の深さが適切でないとほんの少しぼやっと緩む部分があります。その場合はおそらく耳への挿入が深すぎるはずです。微調整してみてください。
ボーカルは自然でわずかに近づき気味、歯擦音やブレスはやや控えめです。ボーカルが近いバランスが好みなら物足りないかもしれませんが、器楽曲よりもボーカル曲の方が相性が良いと思います。
低音域には厚みがあります。抑揚があり、余裕を感じる下支えになっており、少し切なく叙情的な音色を作り出しています。
低域よりも中低域に量があるため機器の出力やイヤーピースの選択によっては中低域が勝ち、超低域が弱めに感じられやすいです。
また、このクリアホワイトイヤーピースではHeart Mirror Proの実力よりもベースラインが音量的にわずかに抑えられています。低音不足を感じるなら他のイヤーピースの方が良いでしょう。
音の立ち上がりは早いようですがキレは少しだけ遅めです。機器の出力にも影響を受け、アンプを使って高出力で鳴らした方がキレが良く、抑揚にもよりリアリティが感じられるようになります。しかし高出力すぎてもボーカルに高音成分が増えやすいため、よりパワフルなアンプを使ったほうが良いという訳ではありません。
音場の広さや奥行きや立体感も機器の出力などの影響を受けます。アンプを使用した場合は分離良好かつ音場広めで立体感があります。残響は実際の長さよりもやや短いものの、消え方が自然でキレが少し遅いためか尻切れ感はありません。
Heart Mirror Proの実力としては疾走感はそれなりにあるのですが、このイヤーピースではややゆったり気味に感じられます。
付属ケーブル+付属シリコングレーイヤーピース
付属ケーブルと付属シリコングレーイヤーピースで聴いていきます。なおこのイヤーピースはHeart Mirror Proのブラックハウジングのコーティングにグリップしてめくれやすいです。イヤーピースの傘をめくって曲がっていないか確認しましょう。
シリコングレーイヤーピースはクリアホワイトイヤーピース(以下、付属クリア)よりも少しすっきりめでタイトです。付属クリアよりもキレが良く高域が出て沈み込みが深くドンシャリに寄せるので、カマボコっぽくなりやすい低出力な機器でもバランスが整いやすいです。DAPの3.5mm直挿しや、あまりパワフルでないアンプを使用する場合におすすめです。
しかし付属クリアで好ましいバランスになる出力の機器でこのグレーイヤーピースを使用すると中高域が強くて騒がしいと感じることがありました。このグレーイヤーピースでは主にFiiO Q5sローゲイン3.5mm接続での評価を中心にまとめていきます。
高音域は刺さるちょっと手前くらいで刺激的すぎず、厚みと量がありつつもすっきりと明瞭で適度にきらびやかです。抑揚は控えめですが伸びやかで、硬さを感じません。高出力な機器で鳴らすと中高~高域の圧が鼓膜に強すぎる感触があります。
中音域ではボーカルが全体の中ではやや手前でありつつ近すぎません。自然な音の高さで、歯擦音やブレスの刺激は控えめです。しかし言葉を発する瞬間の破擦音や破裂音はほど良く再現されており、聴きやすくもリアリティのあるボーカルです。
低音域の沈み込みは深く、音量としては強すぎず弱すぎず。伸びと重みも良好で、近年の超ワイドレンジな海外楽曲でも不満は感じません。高出力な機器で鳴らすとタイト、低出力な機器で鳴らすと量が増えやすいです。全体の中ではやや遠めです。
付属クリアよりもキレが良いです。付属クリアの音が緩めに感じられるならこちらの方が良いでしょう。アンプを使って高出力で鳴らした方がキレが良く、よりリアリティが感じられる抑揚で鳴ってくれます。しかし高出力すぎてもボーカルに高音成分が増えやすいです。
分離は自然な範囲で良好です。音数が多い音源も問題なく鳴らします。しかしJPOPのごちゃつきも誤魔化しはしないため、YOASOBI「アイドル」(Youtube)ではもう少し分離が良い方が楽しく聴けると感じます。直線的でキレが良く疾走感がある音の方が楽しい楽曲ジャンルではProの抑揚とキレの遅さで物足りないのかもしれません。
イヤーピースをKBEAR 07に変えるとJPOPも気持ち良く聴けるため、同様に感じる場合は市販品に変更することも検討した方が良さそうです。
音場の広さ、奥行き、立体感はやや良好です。音の距離は近い方から中高域→中低域→高域→低域→超低域ですが極端な差はなく、それでいて奥行きは十分にあります。
付属クリアよりも音がはっきりすることもあって定位が付属クリアよりもしっかり決まります。音があちこち移動するような楽曲や凝ったミキシング&マスタリングの楽曲でそれを楽しみたいなら付属品の中ではこのイヤーピースが合うんじゃないでしょうか。
付属マイクなしケーブル+付属シリコン黒イヤーピース
シリコン黒イヤーピースは特にベースラインが強まりやすく低音側の残響の伸びが良いです。高音もシャキッと出ます。低音を強めたいならこれが良いと思います。低出力な機器で使用するときにも合います。
また、付属マイク付きケーブルは超低域がマイクなしケーブルよりも弱いため、弱ったぶんの底上げにこのイヤーピースを使うのも良いでしょう。
付属マイクなしケーブル+付属フォームイヤーピース
フォームイヤーピースはハウジング位置が同じなら付属クリアホワイトイヤーピースのバランスに近いようです。しかしフォームイヤーピースは背が高いため装着位置がシリコンの付属イヤーピースよりも浅くなります。
経験上イヤホンの音は機器が低出力なほど、高出力な機器で鳴らした場合よりも耳への挿入を浅めにした方がバランスが整うことが多いです。Heart Mirror Proでは、アンプを使わずDAP直挿しやドングル型DACアンプを使用したときの方が印象が良いと思います。
付属イヤーピース4種類の中では超低域の下の方の帯域が少しだけ強めです。海外楽曲で重低音の深さや重さが物足りない、高駆動な機器で高音に目立つ音があって気になるならこのイヤーピースがおすすめです。ただしシリコンの他の付属イヤーピースと比べると疾走感が劣るため、疾走感が欲しいなら物足りないと思います。この点は低出力な機器ほど顕著です。
また、フォームイヤーピースは1サイズしか付属せず、サイズが大きすぎるという方も多そうです。サイズが大きすぎると潰して入れたときに中が歪むことで高音が更に減衰しますし、合わない場合は諦めた方が良いでしょう。
付属マイク付きケーブル
Heart Mirror Proにはマイク付きケーブルも付属しています。マイクなしケーブルよりも超低域が少し弱くすっきりめな音色になりやすいです。
マイクなしケーブルではそこそこだった疾走感が向上し、早めなリズムのJPOPもより楽しく鳴らせています。主にJPOPを聴く人にはマイク付きケーブルの方が印象が良いかもしれません。
音質まとめ
大黒電線のボイスコイルが良い仕事をしているのか、硬質になりやすいと言われているCCAWでありながら柔らかく自然な低域、直線的ではない鳴らし方が魅力だと思います。
聴き疲れず、低音に余裕がありややゆったり気味ながら何でも上手く鳴らすバランス型です。
再生環境と出力&駆動力
スマホ直挿しなど低出力な再生環境ではボーカル帯域が近めなカマボコっぽいバランスで、キレも一層緩み気味です。イヤーピースを変更することでいくらかバランスは整いますが、基本的にはスマホ直挿し前提ではおすすめしません。
FiiO Q5s(AM3D)を使用するとよりタイトに鳴り、高音もシャキッとします。しかしハイゲイン4.4mm接続では高出力すぎるのか高音の圧が強いと感じてあまり音量を上げられません。4.4mmならローゲイン、3.5mmならハイゲインが良さそうです。
相性が良かった付属イヤーピースは以下の通りです。
- HiBy R6Pro/4.4mm接続 → 付属クリアホワイト
- FiiO Q5s/ハイゲイン/4.4mm接続 → グレー以外
- FiiO Q5s/ローゲイン/4.4mm接続 → クリアホワイト
- FiiO Q5s/ハイゲイン or ローゲイン/3.5mm接続 → クリアホワイト or シリコン黒
その他
装着感
ハウジングは比較的小ぶりです。耳穴周りのくぼみが狭くても問題なく装着できそうです。私の耳は起き耳でくぼみ部分がお椀状に広いためHeart Mirror Proのハウジングは少々小さく、ベストな位置角度にフィッティングするのにちょっと手間取ります。
音漏れ・遮音性
ベントは耳に当たる側に小さく2ヶ所開いています。遮音性は普通、音漏れも気にならないと思います。
他のイヤホンとの比較
HZSOUND Heart Mirror
『Pro』が付かない初代Heart Mirror(以下省略時は一部『無印』と記載)は2020年に発売された10mmDDイヤホンです。CNT(カーボンナノチューブ)振動膜が採用されています。発売時から非常に好評でしたがPro発売後しばらくして販売終了されています。
スペックの違いは以下の通りです。
型番 | Heart Mirorr Pro | Heart Mirror |
---|---|---|
ドライバー | 10mm/CNT 大黒電線CCAWボイスコイル N52磁石 | 10mm/CNT CCAWボイスコイル |
ケーブル | 銀メッキOFC | 銀メッキOFC |
ハウジング | 亜鉛合金 | 亜鉛合金 |
THD | <1%@1kHz | <1%@1kHz |
感度 | 110dB±3dB | 106dB±3dB |
インピーダンス | 32Ω(±15%) | 32Ω(±15%) |
再生周波数帯域 | 10-40000Hz | 15-40000Hz |
- 高音域の音量:無印 > Pro
- 中高域の音量:無印 ≒ Pro
- 中音域の音量:無印 ≒ Pro
- 中低域の音量:無印 < Pro
- 低音域の音量:無印 < Pro
- 低音の量:無印 < Pro
- いずれも付属ケーブル(Proはマイクなし)と付属シリコンクリアホワイトイヤーピースでの比較です。
- 付属クリアホワイトイヤーピースはProも無印も同じ種類なようです。
- いずれもFiiO Q5sハイゲイン3.5mm接続での評価を中心にまとめています。
Heart Mirrorは周波数特性上の低域から中域がフラット寄りなため聴覚上の低音は音量的にはProよりも弱いです。しかし耳に適切に装着できていれば低音は十分に出ます。Proは聴覚上低域からフラットに近めです。
Proの方が軽く低音寄りで少し暗めな落ち着いた音色、Heart Mirrorは明るく華やかな音色です。金属ハウジングが響く無印に対し、私が所有するProのブラックは厚めなコーティングで共振が抑制されておりあまり響きません。コーティングされていないProのシルバーと比較すると別の類似点もあると思います。
自然さ、全体の厚み、音場の広さなどの面で、高出力で鳴らした方がバランスも音も良いのが共通点です。生楽器、特に弦楽器の弦を弓で擦り始めの擦れ音などの解像度が高いHeart Mirrorに対し、Proは擦り始めはまあまあでその少し後からの解像度が高く、胴体が木の弦楽器の胴鳴りが気持ち良いです。
HZSOUND Heart Mirror Zero
HZSOUND Heart Mirror ZeroはProの次に発売されたHeart Mirrorシリーズ製品です。
- HZSOUND Heart Mirror Pro
- Yinyoo-JP 4,780円+10%
- Wooeasy Earphones Store $35.00-36.00+2%OFF
スペックの違いは以下の通りです。
型番 | Heart Mirorr Pro | Heart Mirror Zero |
---|---|---|
ドライバー | 10mm/CNT 大黒電線CCAWボイスコイル N52磁石 | 10mm/CNT CCAWボイスコイル |
ケーブル | 銀メッキOFC | 銀メッキOFC |
ハウジング | 亜鉛合金 | 亜鉛合金 |
THD | <1%@1kHz | <1%@1kHz |
感度 | 110dB±3dB | 112dB±3dB |
インピーダンス | 32Ω(±15%) | 32Ω(±15%) |
再生周波数帯域 | 10-40000Hz | 15-40000Hz |
Heart Mirorr ProとZeroのハウジングの形状は同じです。コーティングはProのブラックと同じ種類だと思います。ノズルフィルターはZeroの方が目が粗いです。
- 高音の主張:Zero > Pro
- 高音域の音量:Zero > Pro
- 中高域の音量:Zero ≧ Pro
- 中音域の音量:Zero ≧ Pro
- 中低域の音量:Zero < Pro
- 低音域の音量:Zero < Pro
- 低音の量:Zero < Pro
- ボーカルの音量:Zero > Pro
- いずれも付属ケーブルと付属シリコンクリアホワイトイヤーピース(同じものが付属)での比較です。
- いずれもFiiO Q5sハイゲイン3.5mm接続での評価を中心にまとめています。
Heart Mirror ZeroはHeart Mirrorに似た周波数特性ですがHeart Mirrorよりも超低域が少し強く高域はやや抑えられています。Heart Mirrorで物足りないと感じる人もいた低音を強化したようなバランスで、Heart Mirrorを改良して価格を抑えたイヤホンと言えそうです。
Heart Mirror Proと違ってZeroはグレーにコーティングされた1色展開です。Heart Mirrorはコーティングのない金属ハウジングなため装着の加減によっては低音不足になる場合がありました。Proと同様にZeroもコーティングでこの問題が改善されています。いずれも耳の形状の個人差による音への影響がより小さくなっているはずです。
ProよりもZeroの方がバランス的には高音寄りなため、付属品のみで長時間聴くならProの方が聴き疲れのない音だと感じます。Zeroはその辺りも初代の後継機らしい部分でしょう。
試しに初代Heart Mirrorの付属ケーブルでZeroを聴いてみるとZeroの付属ケーブルで聴くよりもHeart Mirrorの音色に近く、音もかなり良くなります。価格を下げるため抑えたコストにはケーブルが占める割合も大きそうです。このケーブルを付けてくれていたらZeroはもっと高評価だったかも。
KBEAR Ormosia
KBEAR Ormosiaは発売されたKBEARカスタムBA*2と10mmDD搭載、アルミニウム合金ハウジングのハイブリッドイヤホンです。2022年8月に発売されました。レビューを書いており、レビュー記事内でHeart Mirror Proと比較しています。
MOONDROP KXXS
MOONDROP KXXSは2019年秋発売の10mmDDイヤホンです。DLC(ダイヤモンドライクカーボン)振動膜搭載ムービングコイルユニットが採用されています。低域に量があり高音は刺激控えめな優しい音色で空間表現が素晴らしいイヤホンです。既に製造終了しており通常価格は18,000円前後でした。中古で見かける頻度も落ちてきました。
それぞれスペックは以下の通りです。
型番 | Heart Mirorr Pro | Moondrop KXXS |
---|---|---|
ドライバー | 10mm/CNT 大黒電線CCAWボイスコイル N52磁石 | 10mm/DLC & PEEK 大黒電線CCAWボイスコイル(φ0.035mm) |
ケーブル | 銀メッキOFC | Litz 銀メッキ 4N-OFC |
ハウジング | 亜鉛合金 | 亜鉛アルミ合金・メッキ仕上げ |
THD | <1%@1kHz | 不明 |
感度 | 110dB±3dB | 110dB(@1kHz) |
インピーダンス | 32Ω(±15%) | 32Ω(@1kHz) |
再生周波数帯域 | 10-40000Hz | 20-20000Hz |
- 高音の主張:KXXS < Heart Mirror Pro
- 高音域の音量:KXXS ≦ Heart Mirror Pro
- 中音域の音量:KXXS ≒ Heart Mirror Pro
- 低音域の音量:KXXS < Heart Mirror Pro
- 低音の量:KXXS < Heart Mirror Pro
- 重低音・沈み込み:KXXS < Heart Mirror Pro
- いずれも付属ケーブル(Proはマイクなし)で比較しています。
- いずれもFiiO Q5sローゲイン3.5mm接続での評価を中心にまとめています。
KXXSも大黒電線CCAWボイスコイルが採用されています。ドライバーサイズはいずれも10mm、振動膜は異なり、KXXSはDLC & PEEK、Heart Mirror ProはCNTです。
周波数特性が非常に似ているようです。Heart Mirror Proは付属マイクなしケーブルよりもマイク付きケーブルの方がKXXSの周波数特性的に近いと思います。
KXXSは生楽器曲と物音のリアリティが格別で臨場感がある美音系の音色です。Heart Mirror Proの方が低音も高音もやや強めにチューニングされており、低域にやや量があるKXXSに対しHeart Mirror Proは中低域に量があります。
ホール録音のクラシックを聴いていると観客が立てる物音に思わず振り返ってしまうKXXSと比較するとHeart Mirror Proはゆったりかつ適度に力強い音色で、忠実な実在感を目指したわけではなさそうです。
比較まとめ
Heart Mirorrの後継機的な音色なのはProではなくZeroだと思います。ProはHeart MirrorやZeroよりも聴き疲れしないやや落ち着いた音色で、Zeroと比べるとボーカルは少し下がって聴こえます。ボーカルが近くブレスや歯擦音などの息遣いがよく聴こえた方が良いならZeroの方が好みに合うと思います。
Heart Mirror ProはMoondrop KXXSに似た周波数特性ですが若干ドンシャリ方向に寄っています。イヤホンメーカーとしても評価が高いMoondropの、しかもProよりも上位価格帯であるKXXSには音質面で勝てているとは言えません。そういう意味では少しドンシャリ寄りにチューニングし、臨場感で勝負するのではなく違った魅力を作り出したのは賢明だと思います。
大黒電線のボイスコイルを活かしたチューニングにも成功しているのではないでしょうか。高音が気持ち良かった初代に対してProは木製楽器の胴鳴りなど低~中低域の下支えが気持ち良い音色に仕上がっています。
総評
- まとまりが良い万能機
- 目立って苦手なジャンルがない
- 直線的でない叙情的な抑揚表現
- 余裕がある鳴りの低音
- 充実した付属品
- イヤーピースの選択で幅広い機器に対応
- おそらくブラックとシルバーで音が違う
- 機器/楽曲とイヤーピースの組み合わせによっては中高域が騒がしい
- ポータブルアンプは欲しい
- 初代Heart Mirrorの後継機はProではなくZero
- 年配者の方が評価が高そう
HZSOUND Heart Mirror Proは、懐が深く余裕がある低~中低域が下支えする万能型です。ややゆったりとした抑揚はノスタルジックな音色というわけではないのに気持ちがノスタルジーに浸る少し切なく叙情的な音色を作り出しています。聴いていると過ぎ去った昔のことを思い出していることに気づきます。
十分な早さの立ち上がりに対してキレが少し遅く、低音を中心にややゆったりとした抑揚と弾力があります。そのため直線的でキレが良く疾走感があった方が気持ち良いYOASOBIのようなタイプのJPOPでもゆったり聴かせてしまい、元気さが物足りないと感じました。特に付属マイクなしケーブルは低音が濃厚になりやすく、その傾向が強まります。
全体のバランス、キレ、音場の広さに機器の出力が大きく影響します。DAP直挿しよりもアンプがあった方が気持ち良い音色です。据え置きアンプでは高出力すぎると感じました。ポータブルで十分です。
マイク付きケーブルが付属しますが、常時スマホ直挿し前提ならおすすめしません。もっと鳴らしやすく使いやすいスマホ向きのイヤホンを選んだ方が満足度は高いはずです。
商品名は『Heart Mirror Pro』ですがHeart Mirrorの上位版や後継機という印象は薄いです。周波数特性的に似ているのはHeart Mirror Zeroの方です。音の傾向から言っても直系後継機はZeroだと言えるでしょう。
ボイスコイルの違いがかなり音に出ているようで、音の質感はProの方が上質だと感じます。Zeroは価格を抑えるために付属ケーブルのコストを下げすぎたのではないでしょうか。価格据え置きで無印と同じケーブルを付けていればもっと高く評価されたと思います。
色は2種類から選択できますがハウジングの表面処理が異なります。経験上ブラックに採用されているコーティングは共振を抑えるためブラックとシルバーでは音色に違いがあると予想しています。金属ハウジングの響きが好きな人はブラックではなくシルバーを選んでも良いかもしれません。ブラックは装着の加減(耳への接触面積)に左右されにくく安定した音で聴くことができるメリットがあります。
豊富に付属するイヤーピースを機器による鳴り方の差によって使い分けることでバランスを整えることができます。私は付属マイクなしケーブルでアンプを使ってクリアホワイトイヤーピースと合わせるのがよりフラット寄りで一番好みに合います。
初期装備のHZSOUND Heart Mirror Proをおすすめできるのは、万能型で刺激的すぎないイヤホンを探している人、こぶりなハウジングの方が装着しやすい人、ポータブルアンプを持っている人です。
逆に初期装備のHZSOUND Heart Mirror Proをおすすめできないのは、HZSOUND Heart Mirrorの後継機として似た周波数特性や音色のイヤホンを期待している人、ふくよかさよりもメリハリやすっきりさを求める人、疾走感が強い音が好きな人、ボーカル近めなのが好みな人です。
Heart Mirror Proのボーカルは遠くはありませんが特別近くもありません。明らかに近めが好みなら物足りないと思います。Heart Mirrorだけでなく、Moondrop KXXSに似た周波数特性にKXXSと似た音を期待して買うのもおすすめしません。
Heart Mirror Proはマニアの評価も高かったHeart Mirrorの後継を期待されての上位価格帯製品でしたが、音色の傾向がだいぶ違ったため「期待と違う」という評価も得てしまいました。マーケティング的にはZeroを先に発売した方が良かったのではないでしょうか。
よく出来てはいたものの中華イヤホンマニアが好むような尖った特徴が薄く、器用貧乏なところがあったのかなと思います。海外楽曲を好む中年以上の世代に好ましいと思われそうな音色も、昔の日本人よりも洋楽を聴かなくなっていると言われている若い日本人向きではないのかもしれません。私はけっこう好きなんですが…。